〈光〉の信乃、〈影〉の荘助

　第二十六回の冒頭、村雨丸献上に向かう犬塚信乃と彼を送ってきた犬川荘助は栗橋でしばらくの別れを告げる。ここで長らく信乃を中心に進んできた物語は二つに分かれる。まずは大塚村へ帰った荘助が遭遇する浜路の嫁入りに端を発する惨劇が描かれ、ついで信乃が村雨丸すり替えを原因として許我・行徳で遭遇した事件が語られる。

　この荘助サイドの物語、信乃サイドの物語はさまざまな点で対照的に描かれている。荘助サイド―円塚山〜大塚村の事件は夜を舞台とし、村雨丸をすり替えた者たち（左母二郎、蟇六＆亀篠）は無惨な末路を晒している。その中で荘助は新たな犬士・犬山道節と出会うが、二人は正体を知らぬまま斬り結び、結局物別れに終わってしまう。

　対する信乃サイド−許我・芳流閣の戦いは白昼が舞台であり、村雨丸をすり替えられた信乃は、ために冤罪をかけられるものの、それを契機に新たな犬士・犬飼見（現）八と戦いを通じて出会い、芋づる式に犬田小文吾・犬江親兵衛の二犬士をも見出して、丶大法師から自分たちの使命を知らされるに至る。

　また荘助は円塚山での道節との戦いの後、主夫婦の仇を討ったがために投獄の憂き目に遭うが、それと入れ替わるかのように、百日もの間獄中に繋がれていた現八は一転自由の身となっている。ちなみに荘助投獄は仇討ちの翌朝すなわち二十日、現八が獄を出たのは翌二十一日。

　十二歳からずっと、信乃を密かに守りつづけてきた荘助。信乃が紆余曲折はあれど里見の八犬士の一人として栄達の道へ踏み出そうとしていた時、彼は信乃の許婚の臨終に立ち会い、信乃の伯母夫婦の仇を討ち・・・。ここでも彼は信乃の影として彼に代わって辛い役割を担っているように思えるのである。

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