信乃は美男子か？

　犬塚信乃といえば十一歳まで女装で育ったのが頭にあるせいか、美青年というイメージがある。実際『八犬伝』の小説や漫画ではおおよそ信乃を美形に描いている。しかし原作を見ると信乃が美男だとは一言も書かれていない。道節・大角などは美男らしい描写があるが、信乃については何も語られない。一応前半の主人公なのに・・・。

　九歳時点の「骨逞しく膂力あり」という説明からいっても、十八歳当時の「身長五尺八九寸」という台詞からも、少なくとも女装の似合いそうなタイプには思えない。しかし私はこれでも信乃ファンなので、やはり信乃は美形だと信じたいのである（笑）。

　そこで全編を読み返してみたところ、古那屋文五兵衛が山林房八について「その面影は優美（やさしげ）なる壮佼なり」と評する場面があった（第三十二回）。すぐ後に「犬塚ぬしとよく似たり」と続くので、信乃もやっぱり「優美」であろう。芳流閣のくだりから身が軽いことがわかるので、結構細身かもしれないし。

　また天下の美少年親兵衛は父親似だというから、房八および信乃もかなりランク高いかもしれない（もっとも〈父親似〉というのは房八の母で親兵衛の祖母である妙真の言葉だから、かなり願望がまじってる気はする）。

　もっとも第二十四回で亀篠が「（網乾左母二郎は）こゝらに稀なる美男なれば、浜路も終には信乃が事を、思ひ忘れて、彼人と、情由（わけ）ありかし」と語るあたり、結局左母二郎より落ちることは確かなようだ・・・。

〈ｂａｃｋ〉

〈ｈｏｍｅ〉

146007