キャスティングについて
犬塚信乃戍孝／滝沢秀明
信乃ファンとして、というよりも『八犬伝』ファンとして、信乃と毛野だけは演技力より何よりまず美形であってほしい、という思いがありました。この二人が美形であるのは『八犬伝』もののいわばお約束みたいなもので、たとえストーリーは原作からいかにかけ離れようとも彼らの美形設定を外した作品というのはおそらく存在しない、つまり個人的には彼らが美形でないと『八犬伝』な気になれないのです。今回のドラマには製作が発表された段階から結構な関心を寄せていたのですが、『八犬伝』久々の実写化作品という以外に、信乃を演じるのが滝沢さんだから、というのも理由の一つでした。単に美形というだけでなく、顔立ちは優男なのに筋肉質というのは原作の信乃の描写に合致するし、大河ドラマで時代劇の所作や馬術を経験していて、身体能力の高さも方々で言及されている。話題性も含め、娯楽アクションドラマとしては最良のキャスティングなんではないか、と。実際アクションシーンでの刀さばきは見事なものでした。とにかく他の犬士とスピードが倍くらい違う。今ドラマのアクションの部分の魅力は多く彼が担っていたんじゃないでしょうか。
犬川荘助義任／佐藤隆太
佐藤さんのことは、映画『ローレライ』（主人公の親友の友達思いで人懐こい野球青年役）でしか知らなかったのですが、番宣（『東京フレンドパークⅡ』他）で明るい盛り上げ役を努めている姿に好感を持ちました。本編でも人懐こい笑顔と優しい眼差しに人柄の良さが滲みでているかのような荘助を好演されていました。アクションもなかなか（とくに馬加大記の登場前、林の中で盗賊と素手で戦う場面が良い）だったし、台詞も聞き取りやすかった。癖のない、さりげなく上手い演技をなさっていたと思います。小文吾との名コンビも爽やかな笑いを提供してくれました。
犬山道節忠与／小澤征悦
小澤さんというと以前（おそらくデビュー間もないころ）ＮＨＫの朝ドラ『さくら』でのヒロインの相手役が印象に残っています。熱血漢の体育教師をさわやかにユーモラスに演じてらっしゃいました。それ以来数年ぶりに小澤さんの演技をちゃんと拝見したのですが、（偉そうな言い方をすると）いい役者さんになられたなあと感じました。彼が出てくると画面にどっしり重みが増す感がありました。小文吾役の照英さんもそうですが、十代から二十代の若手が多い八犬士の中に原作の年齢設定を思えばやや年長のメンバーが入っていることで、八人並んだときのバランスの良さというか、安定感が生まれていました。信乃・浜路との比較のためか、大人のラブストーリーをオリジナルで入れるに当たってその役を道節に振ったのは、復讐と愛情の狭間での葛藤というモチーフがドラマ的においしかったからでしょうが、演じ手の資質を考えても道節で正解だったと思います。道節と言う男を実に格好良く魅力的に演じ切ってくれました。
犬飼現八信道／押尾学
押尾さんについては〈ＣＭの「ビューネ君」の人だなあ〉というのと、あとはワイドショー方面でいろいろと騒がれているらしい程度にしか知らず、俳優としての彼がどんな方なのか知識が何もないだけにやや不安がありました。しかし番宣で共演者の方に上手く話を振ってムードメーカー役を果たしている姿（とくにトーク慣れしない勝地さんに渡部篤郎さんの物真似ネタで助け舟を出していたところ）に好印象を持ち、肝心のドラマの中でも、その風貌・話し方・表情で、ニヒルで武芸一途、口は悪いが根は優しい現八を好演、というより体現されていました。ぼそぼそ喋る台詞は聞き取りにくいものの、あの役にはかえって合っていると納得できてしまったし。所属事務所を２００５年いっぱいで離れ、以後は音楽活動に専念するという話ですが（格闘家に転身するとかいう話も・・・）、正直、もったいない。
犬田小文吾悌順／照英
照英さんが小文吾役と発表されたとき、「ああやっぱりね」と思いました。八犬士のうちで、発表段階からおそらくは誰もが納得したキャストは彼だったんじゃないでしょうか。〈気は優しくて力持ち〉な役といえばこの人、という感じ。個人的には、マイナーで申し訳ないんですが、ＮＨＫの朝ドラ『まんてん』で、ヒロインと別れ話をした後に雨のゴミ捨て場でボロクズのごとくくず折れ泣いていた姿が印象に残っています（記憶で書いてるので細部が違うかも）。今回も腕力自慢の頼もしい男（しかもコメディ担当でもある）をユーモラスに演じていらっしゃいました。時代劇も多く演じてらっしゃるだけに殺陣や台詞まわしもさすがの安定感。男と知らず毛野に鼻の下を伸ばしているところなど、表情だけでも笑わせてくれました。お見事。
犬坂毛野胤智／山田優
上で書いたように〈信乃と毛野だけは絶対美形〉なのが『八犬伝』ものの常道で、それだけに女装美少年毛野は女優さんが演じるのが定番のようになっています。だからこそあえて男優で、東映三部作（未見だけど）という前例もあることだし、と期待したんですがやっぱり女優さんが演じることに。外見だけなら女と見まごう美青年も少なくない昨今とはいえ、声や所作、テレビでアップになることも考えたら女形でも難しいだろうし仕方ないか、とちょっとがっかりし、しかも山田さんにはモデルの方という認識しかなかったので結構不安要素がいっぱいでした。しかし蓋を開けてみれば、顔立ちも声も凛々しく、特に笑顔には不敵にして艶冶な色香があって、毛野の毒を含んだ美しさがよく表れていました。台詞は若干棒読み気味だったものの、ビジュアルと舞い姿の美しさで十分満足させていただきました。
犬村大角礼儀／勝地涼
個人的に、映画『亡国のイージス』以来注目している俳優さん。まだ若いのに目線や声のトーンで感情を表す繊細なお芝居に長けていて、そのときどきの役に誠心誠意取り組んでいる姿も好印象。彼が八犬士の役で出演するとわかった時は、（未知数の役者さんが多かっただけに）ちゃんと演技の出来る若手を起用してくれたことを嬉しく思ったものです。とはいえ大角には幼すぎるのでは？荘助（とくに碧也版）ならぴったりくるんだけど（荘助の方が年上だが大角には何となく老成したイメージがある）・・・など正直不安というより不満がありました。しかし実際に作品を見て、肝を差し出すよう迫られたときの親の愛を求める子供のような表情に「ああ、だから勝地涼なのか」と納得。大角が妻帯者という設定をはずし、親子愛を主体としたドラマ独自の庚申山編には、勝地さんの持つ幼さ、ナイーブさが逆によく合っていたと思います。台詞まわしなどに拙さがあるものの、表情のわずかな動きだけで画面を持たせられる表現力はさすがでした。
犬江親兵衛仁／山下翔央
今回唯一オーディションで選ばれたという彼。アクロバットが得意なのを買われたらしいですが、実際戦闘シーンでの軽やかな刀さばき（滝沢さんのスピード感とはまた違うひらひらした感じ）と、合間で入る宙返りには目を引かれました。山下さんについては、今回のキャスト発表までお名前も知らなかったのですが、ジャニーズの方なんですね。身が軽いわけです。そしてドラマ出演は今回が初めてというのにびっくり。確かに台詞まわしはまだまだまだですが、表情がとても良い。怒り、戸惑い、悲しみ、喜び、それぞれの感情を生き生きと表していて、目だけで感情を伝えていることさえあるのには驚きました。これで演技の経験はほとんどないというのだから大したものです。今後役者としてもどんどん活躍していってほしいと思います。
八犬士以外では、ともさかりえさん（個人的に今回のＭＶＰ）、菅野美穂さん（怨霊としての迫力ある演技以上に時折見せる弱さの部分に心打たれた）、武田鉄矢さん（最初誰が演じてるのかわからなかった。悪役似合うなあ）、佐野史郎さん（言うまでもなく）などが印象的でした。すごいちょい役でばたばた消えてゆく脇の豪華キャストの方々も、名優ぞろいだけに短い出番のなかで印象的なお芝居を見せてくれました（特に死に顔）。
〈ｂａｃｋ〉
〈ｈｏｍｅ〉
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