〈犬〉の子供たち

　「虚々相偶て生」った子供たち（「虚々相偶て生る」参照）―八犬士と後の力二郎・尺八―にはある共通項がある。彼らの〈父親〉が犬であることだ。

　八犬士の霊的な父親が八房なのは言うまでもないが、後の力二郎・尺八の父親、すなわち十条力二郎・尺八の兄弟についても、第四十四回で信乃が「力二の両字を転倒すれば、便（すなはち）是方となる。又尺の字の〓（べき）を上にすれば、便是戸の字なり。又これを全聚（ひとつによ）すれば、房の字となるにあらずや。さて尺八の八の字を、房の上に冠らすれば、八房の二字となる。」と文字を分解・解釈していて、彼らが八房に擬せられる存在であることを示唆している。

　さらに彼らの母である音音の「奴婢密通の子共をば、畜産に比するといふ」（第四十八回）という台詞、彼らの父の名は信乃幼少時の飼い犬と同じ与四郎（世四郎、代四郎）なのも、力二郎・尺八兄弟の〈獣〉性を裏書きしている。そんな彼らの子供―後の力二郎・尺八―の誕生を予告したのが、八房の子・八犬士のうちでも「八房」「いぬ」を転倒した房八・沼藺を両親に持つ親兵衛だというのもまた意味深だ。

　また〈犬〉の子である八犬士がその名字に「犬」の字を持つように、十条兄弟の子供たちも、それぞれ父親と同じ「力二郎」「尺八」を名乗っている。犬の子はやはり犬なのである。

　そう考えると、八犬士および後の力二郎・尺八がそろって〈虚弱体質〉（「虚々相偶て生る」「八犬士は虚弱体質か？」参照）なのは、異類婚姻ゆえの異常出産に基づくものと見てよいんではないだろうか。

〈ｂａｃｋ〉

〈ｈｏｍｅ〉

146007